「冬を待つ城」の感想

「冬を待つ城」の感想

時代背景は戦国時代末期。
天正18(1590)年に豊臣秀吉が小田原の後北条氏を滅ぼした後、同年7月に宇都宮城で東北に対し宇都宮仕置(奥州仕置)を行い伊達政宗らの処遇を決めます。

しかしその強引な秀吉の進め方に対し、東北では奥州仕置軍の主力が引き上げると、一揆が始まり不穏な空気漂う中、南部信直の家臣筋にあたる九戸政実が信直に対し宣戦布告。

遂に秀吉は豊臣秀次を主力とする軍勢を再度東北へ送り込み、奥州代官として残った浅野長政や、蒲生氏郷らと合流し、天正19(1591)年、九戸城を中心に激突した「九戸政実の乱」を描いた作品です。

物語は文禄元(1592)年の第一次朝鮮出兵(文禄の役)で豊臣軍が朝鮮半島の極寒の環境に苦しむ中、石田三成が冬になれた東北の人足を集められなかったことを悔やんでいるシーンから始まります。

そして物語の重要人物、九戸政実は首を刎ねられたことも暗示するシーンが登場し、いよいよ東北で何があったか物語が始まります。

冬を待つ城は、九戸政実の末弟で、僧籍から武将に戻った久慈政則が主人公として話が展開していきます。

やや史実と異なる点も多いのですが、九戸氏の主筋にあたる南部氏の当主の座をめぐり、南部信直と九戸政実が、南部氏の惣領の座を巡り対立し、乱に繋がるのですが、その大元の背景としてかつて大和朝廷の時代から東北は中央政権に搾取される立場で、政実はまたも起きた、秀吉による東北の人足集め「人狩り」という理不尽さに対抗するために、自らの命を賭けて東北を守るための戦いだったという視点で進みます。

安部龍太郎特有の官能的タッチや、山の民などファンタジーな要素も含みながら、物語はスピーディーに進んでいきます。
結末は史実と異なる点もありますが、とても読み応えのある面白い時代小説に仕上がっています。

東北武士が天下の上方軍に立ち向かう構造ということでは、大ヒットした「のぼうの城」に通じるものもあります。
史実と違う結末があまり好きでない方にはオススメできませんが、とりあえず面白い、戦国時代の小説をお探しの方にはぜひオススメしたい1冊です。

著者 安部 龍太郎
出版社 新潮社

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